功利主義まとめ【レジュメ】
1.功利主義の基本原理
1)最大幸福原理
最大幸福原理(功利の原理)…全ての人々の最大幸福を人間の行為の唯一の正しい目的であるとする『道徳および立法の諸原理序説』(ベンサム[1789])。
2)構成要素
要素→①「最大化」、②「幸福」
(1)帰結主義 Consequentialism
⇔cf.義務論
結果無価値論と行為無価値論
(2)厚生主義 Welfarism
快楽説と選好充足説
(3)総和主義 Aggregationism
集計値の最大化 ⇔資源分配への配慮
3)特徴
(1)非利己主義…社会全体の幸福への関心⇔利己主義…自己の幸福のみに関心
範囲の問題→動物の幸福は配慮するべきか?
(2)単純さ
正・不正の判断基準…幸福に資するかどうか
ex.人権保障→権利に価値があるのではなく、幸福に資するために権利は保障されるべき⇔幸福に資さない場合はなぜ権利を保障するべきなのか?
(3)自由
個人の選好を重視→幸福の自己決定
(4)平等
①平等算入公準
→社会的身分、性別等を考慮しない
②限界効用逓減の法則→所得の再分配
※限界効用Marginal utility
(5)反直観性
道徳的直観への批判
…直観とは独立した制度、政策評価
2.批判と展開
(1)苦痛の最小化
幸福の総量=快楽の総量ー苦痛の総量
(古典的定式)
→「快楽」とは何か?「苦痛」とは何か?
苦痛の最小化→消極的功利主義
⇔積極的功利主義(古典的定式)
(2)消極的功利主義の問題点
「最大幸福社会」(積極的功利主義)
最小化されるべき苦痛とそうではない苦痛
→除去される権利を持つかどうか
⇒功利主義以外の要素に依存
(1)効用の個人間比較
異なる個人間の利害関係…快楽の測定・比較
⇒自己申告制?
(2)効用の基数性 Cardinal utility
快楽の数値化⇒快楽の序数性
(優先順位:Ordinal utility)
複数の選択肢の効用に順序をつけることは可能だが数値化は不可能
(3)経験機械
快楽は善か?
⇒経験機械(Nozick[1974])
一生快楽を経験させてくれる機械に繋がれたいと思うか?
⇒快楽が善であるか、価値があるのかという問いかけ
(4)選好功利主義
効用=選好充足(Preference)
⇒効用の個人間比較への応答
…同一個人間の効用比較への置換
⇒効用の基数性への応答
…効用の序数性の確保
⇒効用は善か?という問いへの応答
…個人選好によって善かどうかを判断
(5)選好功利主義の問題
①選考充足は善か?(⇒選好するから善ではなく善であるから選好に値する)
②外的選好 ⇔個人的選好
⇒少数の選好<多数の選好…選好の最大化が正義にかなうか精査する必要
総量功利主義…社会の総幸福の最大化
平均功利主義…1人当たりの幸福の最大化
ex.人口政策…積極的政策(人口1億人、幸福1.5億P)vs消極的政策(人口5000万人、幸福1億P)⇒総量功利主義の場合、1.5億P>1億Pより積極的政策を採用すべきという結論⇔消極的功利主義の場合、1人当たりの幸福1.5P<2Pより消極的政策を採用すべきという結論となる。
★総量功利主義の場合、低い厚生状態であっても人口が増えれば正当化される?
★平均功利主義の場合、平均値以下の人間は生まれない方が良いという結論に?
⇒先行存在説
(1)規則功利主義
個々の行為の幸福最大化(行為功利主義)
⇒①規則採用段階:社会の幸福を最大化するか?(功利原理)
②行為評価段階:採用された規則に合致するか?(義務論)
(2)規則と例外
⇒ルールの遵守が効用最大化を否定?
(3)二層理論(Hare[1981])
直観レベルと批判レベル
★直観レベル…直観的規則を基礎とした行為の遵守
⇒複数の直観的規則の衝突の場合、批判レベルへ移行
★批判レベル…功利主義を基礎とした行為の遵守
行為の決定手続と評価基準 cf.統治功利主義
3.問題の所在
1)帰結主義の問題点
(1)知識の限界
行為の帰結が予見不可能
=人間の認識能力の限界を無視
(2)物語性への配慮
物語性(integrity)
行為の評価→誰が行為をしたか?
⇒帰結主義では説明できない
帰結主義=行為者中立性 ⇔行為者相関性
(3)過剰な要求
社会的効用の増加が社会的責任を肯定する
ex.チャリティー(寄付)
(4)統治功利主義
個人ではなく統治者の倫理としての位置づけ
2)厚生主義の問題点
(1)非厚生情報は不要
基準となる情報は厚生(満足度)に限定
→その他の情報は配慮しない
(2)効用の制度依存性
客観的な制度、状況が厚生を変化
cf.教育と洗脳
教化:客観的な制度が主観的な厚生に影響を与えること
(3)適応的選好形成
慢性的抑圧による選好の変化
→抑圧的支配の容認
制度設計や政策評価に用いられる厚生情報が制度・政策によって変容⇒循環
(4)自律的選好
適応的選好の排除?→自律的選好への着目
(注)他律的選好や適応的選好を排除すべきというわけではない
3)総和主義の問題点
(1)効用の主体
社会全体の効用→「社会全体」の範囲とは?
最大多数の最大幸福
→「最大多数」とは誰か?
⇒外国人の効用、胎児の効用、動物の効用、将来への効用
(2)分配に対する無関心
全体の総和に着目(個々人の効用の配分には無関心)
(3)個人の個別性
個人=代替可能な存在? cf.名前、歴史
(4)追加説
「A or B」の均衡した状態
⇒「A+C or B」の状態
数で比較するのではなく個別性を尊重する
⇒総和主義との差別化
(5)総和否定主義
追加説⇒最終的には総和主義への接近?
各人が助かる確率を公平化すべき
「A+C or B」の場合、A+Cは2/3、
Bは1/3の確率で助けられるべき?