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議論、趣味、その他

第1章正義論は可能かー4相対主義(井上達夫「共生の作法」[1986])pp.10-21

【目次】

1.問題

2.分類と解明

3.確証不可能性

4.方法二元論

5.非認識説

 

1.問題

正義論の存在理由に対する根源的な問い―「何が正義か?」―を相対主義は投げかける。正義に正解はないという相対主義の立場を反証するには端的には「正解」を示せばよいが、このような態度は適切ではない。正義原則が満たすべき形式的・実質的適格条件を設定し、条件を満たす整合的な正義原則の集合を1つだけ存在するということを証明することは可能かもしれない。この場合においても、正義原則の適格条件の正当性を問われるため、正当性をめぐって無限に演繹されていく。相対主義に対しての応答は相対主義による正解の不存在証明の否定と正解の存在を想定して議論を行うことの有意味性を示すことである。

 

2.分類と解明

・広義の相対主義

 (1)経験的相対主義

 (2)価値論的相対主義

   (Ⅰ)規範的相対主義

   (Ⅱ)メタ価値論的相対主義

     (ⅰ)非普遍主義

     (ⅱ)価値相対主義

 

3.確証不可能性

認識論的前提(確証可能テーゼ)

=「与えられたある価値判断の真理性(妥当性)を確証する方法・手続をが少なくとも与えられていないならば、その判断は客観的に真ではあり得ない」

(反論)⇒

①確証可能テーゼを承認したうえで、確証可能な価値判断の存在証明

②確証可能テーゼそのものの否定

 

①(対偶)=「客観的に真(妥当)であるならば確証可能である」⇒独断的絶対主義

②自己論駁性⇒「確証可能テーゼそれ自体」の確証可能性の不存在

 

4.方法二元論

・事実と価値の峻別、存在(である)と当為(べし)の峻別

 ⇒「事実判断のみからなる前提から価値判断は論理的に演繹できない」

 ⇒「ある価値判断を正当化するならば、それを他の価値判断から演繹せよ」

 

(究極原理)⇄

(価値判断A)⇄

(価値判断B)⇄ 

 …  ⇄(価値判断X)

 

・究極原理の恣意性⇒価値判断の妥当性の恣意的性格を含意

・方法二元論と価値相対主義の論理必然的な結びつきの欠如⇒2つの前提を含む

(1)遡行的正当化理論…命題の自己正当化もしくは他の命題からの演繹

(2)反実証主義…自己正当化的価値判断の不存在

相対主義の三要素=方法二元論・遡行的正当化理論・反実証主義

 

5.非認識説

・「価値判断が客観的に真ではあり得ないのは、それが判断ではないからである」

・評価言明や当為言明の非認識説的分析は支持不可能

(1)「言語行為論」⇒記述的意味と非記述的意味、認識的意味と非認識的意味の並列的区別が不可能

(2)当為言明について「有効性」や「適切性」のような語用論的評価次元だけでなく、意味論的な真理概念の適用可能性