鷺沢萠「川べりの道」解説編
みなさん、お久しぶりです。
現代文解説シリーズのお時間です。
だいぶ前に柄谷行人の「探究Ⅰ」と鷺沢萠の「川べりの道」の2作品を投稿しました。
今回は鷺沢萠の「川べりの道」の解説をしていきたいと思います。
まだ読んでいない人や解いていない人は是非読んでから解説を見ていただけると楽しめるかと思います。
目次は以下の通りです。
1.鷺沢萠について
2.問題解説
3.まとめ
それでは、どうぞ。
1.鷺沢萠について
鷺沢萠(さぎさわめぐむ)という作家をみなさんは知っていますか。知らない人が多いかもしれませんね。私の私見ではありますが、彼女はまさに天才と呼べる作家であると思います。読んでみた方なら分かると思いますが、表現が繊細で心地よさを感じると思います。特に背景、心情の描写が直接私たちに伝わってくるような感覚さえ覚えてしまいます。そんな彼女の処女作と言えるのが今回の「川べりの道」になります。そしてこの作品は彼女が当時18歳、つまり高校3年生の時に書いた小説なのです(私と同じ年齢ですね…)。そしてこの作品は当時史上最年少の文學界新人賞に選ばれます。そして彼女は女子大生作家として作家人生を歩んでいきます。その後は芥川賞候補に3回選ばれますが、2004年4月11日に35歳で自殺してしまいます。彼女の死は太宰治や芥川龍之介、三島由紀夫と言った文学界の天才たちと同様の衝撃を与えました。もう彼女の作品の多くはそこまで有名ではありませんが、今でも色あせない名作が残されています。ぜひ興味があれば他の作品も読んでみてはいかがでしょうか。今回の川べりの道は文集文庫の「帰れぬ人びと」(1992年)に収録されています。
2.問題解説
問(1)語句の意味
語句の意味問題はセンターではお馴染みの問題になっていますね。解き方には2つありますが多くの人は前後の文脈から推測するという解き方をする人が多いかなと思います。決してそれは間違った解き方ではないですし、むしろ正攻法ともいえる問題だと思います。しかし、語句の意味は漢字と同じように暗記の分野であると私は思います。センターの問題や大学二次試験においても表現として重要な語句は頻出で問われます。現代文の単語帳にも記載されていることが多いですので、漢字と同様に暗記してしまいましょう。なぜ暗記するかといえば、時間がもったいないというのが一番です。今回の問題の(1)、(3)は頻出の問題ですし、暗記の通りの意味です。知っていれば1秒で解ける問題なので時間が足りないよという人は是非単語帳の語句の意味を暗記するのも一つの手だと思います。どうしても前後の文脈から推測しなければならない問題も出題されますので、基本暗記で分からない場合は文脈から判断するという解き方の方が合理的であるといえます。
(ア)所在なげに
「所在なげ」は「手持ち無沙汰な様子」を意味します。正解は(ホ)になります。
(イ)鼻面を突然はたかれたかのような顔
前後の文脈から推測しなければならない問題です。
「じゃ、俺もうそろそろ……」
【鼻面を突然はたかれたような顔】
をして、父は「そうだな」と不興そうな短い声を出す。
消去法でも分かりますが、苦痛でも、怒っても、泣きそうでも、いらだたしい様子でもなさそうなのは明白ですね。代入してみるとよく分かりますが、適切なのは「びっくりしたような顔」でしょう。
もちろん、父が実際に「びっくりしている」わけではないです。あくまで「ような」顔ですから。
ごまかしというかそんな感情が垣間見えますね。正解は(ロ)になります。
※記述で「びっくりした顔」と書いたらたぶん減点です。結構重要なポイントです。選択問題なので難易度は易しいです。
(ウ)ぶっきらぼうに
「ぶっきらぼう」は「愛想がない」ことです。正解は(イ)になります。
【採点基準】各3点×3問=9点。
(ア):(ホ)と答えて3点
(イ):(ロ)と答えて3点
(ウ):(イ)と答えて3点
問(2)説明問題ー理由
「川べりの道は長かった」とあるが、なぜ「長かった」のか、説明しなさい。
理由説明の方針は①因果関係を説明する、②意味内容を説明するの2パターンです。
次に傍線部を分析しましょう。
「川べりの道は長かった」とありますが、「川べりの道」=「長かった」と分解できます。
・「川べりの道」とは何か……①
・「長かった」のはなぜか……②
この2点を答えなければなりません。
①「川べりの道」とは何か=意味内容の説明
②「長かった」のはなぜか=因果関係の説明
ここまで問題を分析できれば、本文を精査しましょう。
①「川べりの道」とは何か
吾郎と時子の生活費を女と暮らす父から貰うために通る土手道が本文における川べりの道の説明です。少し読み進めないと川べりの道を吾郎がなぜ歩いているのかが分からないのでちょっと難しいかもしれません。
②「長かった」のはなぜか
川べりの道は「実際には、さほど遠い距離ではなかったのかも知れない」。けれども、吾郎には「長かった」。
吾郎にとって川べりの道はどんな道だったのでしょう。
・「ゴム底の運動靴の足の裏に感じられる尖った石の感覚は、ある哀しさを伴って伝わってきた」
・「ひと月のあいだで様変わりしてしまうそれらの風景をぼんやり眺めながら、吾郎はおなじみになった土手道を歩くのだった」
・「そういったものを聞くと、吾郎は胸が圧されるような気分になって…テレビの画面を映して赤くなったり青くなったりしているのを見ると、なぜか安心して前を向いて歩き出すのである」
・「不思議に思うのは、あの川べりの道を歩いている間は、早く父に会いたくて、というより早くこの家に着きたくて仕方がない……」
吾郎にとっては「ある哀しさ」がある道のようですね。様変わりする風景の中である種の不安を感じ、父の住む家に早く着きたいという感情があるみたいですね。ここまで来たら解答は書けると思います。
【解答例】
自分と姉から離れ、知らない女の人と暮らす父親の家に毎月生活費を貰いに行く道は、様変わりする風景の中で垣間見る住宅街の生活にある種の不安を感じさせ、早くその家に着きたいと思うほど哀しい道であったから。
結構難しい問題でした。難易度は【やや難】といったところでしょうか。最初の読解問題が難しいと全体の読解にも影響することを考えると最も重要な1問であったと思います。
※背景→心情→言動という形式にも当てはまります。 例)「川べりの道」→「不安・哀しさ」→「長かった」
大体の問題は「背景」や「心情」を説明しなさいという問題が多いのですが、両方説明しなければならないのはなかなか難しい問題ですね。とっつきにくさも感じられますね。
【採点基準】
①「川べりの道」とは何か(意味内容)を説明して5点
②「長かった」のはなぜか(因果関係)を説明して5点
*某予備校の模範解答は不安を「孤独感」と解していましたが、そこまで読み取れるでしょうか?ちょっと私には分からないですね。だれか教えてください。
長くなってしまったので次の記事で問3〜問5を解説します。
またみてくださいね。