r_u_x_n_a’s diary

議論、趣味、その他

鷺沢萠「川べりの道」解説編2

前回の解説の続きになります。

まだ読んでない人は読んでからきてください。読んでも楽しくないよ。

問3の問題解説からしていきます。

 

問3 選択問題ー理由(心情)

「わざと時間をかけて靴ひもを結ぶ」とあるが、「吾郎」はなぜこうするのか。

 

背景→心情→言動の形式で考えてみましょう。

【背景】?

【心情】?

【言動】「わざと時間をかけて靴ひもを結ぶ」

今回の問題は吾郎の「心情」を問われています。前提となる【背景】を本文から見つけ、【言動】に繋がる論理を考えましょう。

【背景】には何が入るでしょうか。吾郎は父の住む家に着いたものの「女の人が今帰ってくるかと気が気でな」く、「早く帰りたいという気持ちでいっぱい」です。そう考えると、「早く帰りたい」のに「わざと時間をかけて」います。それは父から生活費を受け取るという自分の「役目」を果たさなければならないからです。この2つの背景を押さえれば、答えは消去法でも出てきます。

 

【背景】①早く帰りたい

    ②自分の役目(=生活費を受け取ること)を果たさなければならない

【心情】?

【言動】「わざと時間をかけて靴ひもを結ぶ」

 

・選択肢の精査

(イ)父の自分を焦らすような振る舞いに負けてしまわないため→意味不明

(ロ)自分に対する親愛の情をかみしめるため→早く帰りたいという背景に矛盾

(ハ)繰り返す儀式のような行動

   →スムーズに終わらせたいという背景や言動に一致。これが正解。

(二)お金を受けとるのは嫌なことであり、無意識のうちに遅らせたい

   →お金を受け取ることが嫌なことという根拠(背景)がありません。

(ホ)心の中にくすぶっている父への不満や怒り→根拠(背景)がありません。

 

【採点基準】(ハ)を選んで、6点

 

問4 説明問題ー理由(心情)

「吾郎はそのとき、なぜだか心の中で『ヤバいな』と呟いた」とあるが、このときの吾郎の心情を説明しなさい。

 

【背景】?

【心情】?

【言動】「吾郎はそのとき、心の中で『ヤバいな』と呟いた」

 

背景には、「学校の友人から、お前はさめてると言われ」、自分だけの秘密であるはずの、たちの悪い趣味を見つけられたような気がしている。吾郎は自分を偽っているような気がしている。

 

【背景】①学校の友人からの指摘

    ②自分を偽っているかのような気がする

【心情】?

【言動】「吾郎はそのとき、心の中で『ヤバいな』と呟いた」

 

【解答例】学校の友人からの指摘に自分を見透かされたように感じているとともに、自分を偽ったまま周囲に合わせている自分を気がかりに感じている心境。

 

【採点基準】

①友人の指摘に自分を見透かされているという心情を記述して4点

②自分を偽ったまま周囲に合わせているという背景に3点

③またその自分を気がかりに感じているという心情を記述して3点

 

 

問5 説明問題ー心情・要約

「父」は「吾郎」や「時子」にどのような感情を抱いているか、本文全体を踏まえて説明しなさい。

 

本文全体を通して、父の吾郎や時子に対する心情を要約させる問題です。要約というよりは心情の説明になりますが、全体を背景とした父親の言動を踏まえた心情の考察とでも考えるべきでしょうか。

細部を見るというよりは大まかな流れ、つまり木を見るのではなく森を見る必要があります。

父親の描写としてポイントとなる部分を考えてみましょう。

 

①父の状況

吾郎と時子と別居。女と一緒に暮らしている。

②父との繋がり

毎月一度の生活費のやりとりのみ。僅かながらのつながり。

 

【解答例】

吾郎や時子ではなく女と一緒に暮らすことを選んでいることに父親としての後ろめたさを感じており、二人との関係が切れることを恐れるなかで、毎月吾郎が生活費を受け取るときに優しく接することで、二人とのつながりをなんとか維持していたいと思っている。

 

【採点基準】

①二人への後ろめたさ…5点

②関係の崩壊への恐怖…5点

③優しく接することで

④繋がりを維持したい…5点

 

3.まとめ

川べりの道を解説してきました。以前紹介した椎名麟三「神の道化師」と似たような設定でしたね。しかし、神の道化師は絶望の中の僅かな希望を描いているとしたら、川べりの道は永遠に続く救いのない絶望なのかもしれないですね。柔らかいタッチで繊細に描かれた心情の描写には高校生とは思えないレベルです。天才とはこのことですね。どんなに時が経っても色褪せない名作の一つです。

また見てくださいね。

それではお疲れ様でした。