現代文ー小説(3)「菜穂子」解説
0. 解説の前に……
最近、私のブログ(あとTwitter)は現代文についての投稿が多かったと思います。
勉強垢でもないのに、勉強についての投稿をして「なんなんだ」と思う人も多かったのかなと反省しています。
自己満足に近い、押し付けともいうべき投稿でした。不快に思った方がいたらごめんなさい。
でも、現代文を勉強だけのためにするのはもったいない気がして仕方ないのです。
余計なお節介かもしれませんし、自己満足に過ぎないのかもしれませんが、実は読んでくれている人も中にはいるかもしれないと思って、頑張ってきました。
紹介したい作品がいっぱいあります。
伝えたいことがいっぱいあります。
でも私も大変ですし、読んでくれている人も大変だと思うので、しばらくは控えようと思います。
この「菜穂子」は現代文の奥深さ、魅力を伝えるのには最適な作品だと思っています。
何か感じてくれたら、今までの努力も少しは報われるのかなと思います。
ぜひ、まだ読んでいない人はよく読んでから、解説を読んでください。
1.「菜穂子」を紹介しようと思ったワケ
正直に言えば、金曜ロードショーで「風立ちぬ」が放送されていたからです。
宮崎駿監督の引退作「風立ちぬ」の原作は堀辰雄の「風立ちぬ」です。
映画に出てくる菜穂子(堀越二郎の嫁)は今回の作品の菜穂子です。(厳密には「節子」ですが。。。)
そんなことは余談ですが、今回の問題を私も読んだときに、「重いな〜」なんて思ったのです。
しかし、この問題はよく読むと非常に違和感があることに気がつきます。
そして本文には明示されていない本当の意味が見えてきたときに、現代文の奥深さをまじまじと感じさせてくれました。
自分の読解力がまだまだであることを痛感させてくれたこの問題は伝説の良問と言っても過言では無いと思います。
大切なのは「本文」を「丁寧」に「追跡」することです。
些細な記述を見落としてしまうと本当の意味にはたどり着けません。
例え、たった一文であったとしても。
2.本文解説
(1)場面
圭介が入院している菜穂子を見舞いに来ているシーンです。しかし、菜穂子は圭介の見舞いに対してあまり好感を抱いてはいません。圭介自身もそんな態度の菜穂子に不満を感じています。暮れ方には荒れ気味の雨が降り、圭介はそのまま病院に泊まることを言い出します。菜穂子に対して圭介は声をかけるが、沈黙と雨の音だけが充たされるだけだった。
大体こんな感じの場面で、圭介と菜穂子の修羅場なんだなということがわかります。
これだけでは丁寧な読みとは言えません。違和感が絶対にあったはずです。
その感覚は大事です。もう少し、本文を詳しく見ていきましょう。
(2)圭介の目的
圭介はなぜ菜穂子のもとに来たのでしょうか?
圭介の目的は「お見舞い」ではないです。
冒頭部分に違和感を感じた人もいるのではないでしょうか?
「圭介はやっと廊下で1人の看護師を捉えて聞くと、菜穂子のいる病棟はもう一つ先の病棟だった」
ここだけ見るとスルーしがちですが、圭介は「前に妻(菜穂子)の入院に付き添ってきた時のことを何かと思い出し…」と書いてあるので、初めて病棟に来ているわけではないことがわかります。ここに違和感を感じませんか? 圭介は自分の妻の病室を一回来ているにも関わらず、憶えていないのです。
また中盤でも違和感は続きます。
圭介は療養所に泊まることを言い出します。菜穂子は近くの村の宿屋に泊まることを勧めますが、圭介は「いまさらのように狭い病室の中を見渡し」ます。これには菜穂子も「変わっているわね……」と揶揄しています。
ここまででも圭介の目的がお見舞いではないことに気がつきます。
圭介が菜穂子のもとに来た、本当の目的は次の部分です。
それは次の言葉を思い切って言うためだった。
「……お前は家へ帰りたいとは思わないかい?」
この一言を菜穂子に言うのが、圭介の本当の目的です。
ここまでの読解ではまだ不十分です。なぜ、菜穂子はこの言葉を聞いて「身を竦めた」のでしょうか?
本当の読解は、全体を通しての違和感が教えてくれます。
(3)圭介という人物像
最後の違和感は圭介の人物像についてです。
彼はどんな人間でしょうか?
答えは「マザコン」です。
全体を通して圭介という人物は「1人じゃ何もできない男」であることが分かります。
泊まることを決断した時にも菜穂子は「まあこの人が……」と驚いています。
その後には1人で夕食を済ませ、1人で泊まる用意を頼んでいます。
また即席のベットを「無器用そう」に作ります。
いい大人がこんな風に描写されるのはかなりの違和感があると思います。
この問題の1番重要な一文は次の部分です。
「不意と部屋の隅に圭介の母の少し険を帯びた眼差しらしいものを感じながら…」
この一文をスルーしてしまうと本当の意味にたどり着けません。
この一文で圭介がなぜ「……お前は家へ帰りたいと思わないかい?」と聞いたのかが分かります。
つまり、圭介は母親の差し金なのです。
悲しいことに菜穂子はそれを最初に見抜いています。
「夫がそう言い訳がましいことを言うのを聞くと、菜穂子の眼からは今まであった異様な赫きがすうと消えた」
この時点で菜穂子は圭介の訪問がお見舞いではないと分かってしまったのです。
「そんな夫の癖を知りながら」など本文において菜穂子の圭介に対する理解が相当なものであることは垣間見えます。
3.解答例
「帰宅を促されたものの、親身とは言えない夫や自分を嫌う姑のいる家には帰りたくない本音を隠しているから」
4.最後に
最後まで読んでくれた人には本当に感謝しています。
何か感じられましたか?
何か読んで感動はしましたか?
オススメの作品とかあれば是非紹介してください。
またオススメの作品を紹介したいと思います。
それでは、、、。