1日で得意になる漢文の解き方の話〜⑦実践編(2)解答
例にもよって書き込み例を載せます。
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今回のテーマは比較です。漢文ではよく比較表現が使われるので同じ文型、同じ構成、同じ句型などに注目して解いていきましょう。
第1文「家庭之教又必原於朝廷之教」
品詞分解「家庭之教(S)、〈又(M)〉、〈必(M)〉、原(V)、〈於朝廷之教(M)〉」
→「必」、「於」の意味を確認しましょう。
書き下し文「家庭の教へ又必ず朝廷の教へに原づく。」
→意味もそのままなので特に解説はなしです。
第2文「朝廷之教以【(1)】、則家庭之教亦以道徳。」
第3文「朝廷之教以名刺、則家庭之教亦以名刺。」
→第2文と第3文は文構造がほぼ一緒です。比較ですね。分かりやすいので気付いた方も多いと思います。
品詞分解「朝廷之教(S)、以(V)、【(1)】(O)/、〈則(M)〉、家庭之教(S)、〈亦(M)〉、以(V)、道徳(O)。」
→「以」、「則」、「亦」の意味を確認しましょう。
書き下し文「朝廷の教へ【(1)】を以てすれば、則ち家庭の教へも亦た道徳を以てす。」
「朝廷の教へ名刺を以てすれば、則ち家庭の教へも亦た名刺を以てす。」
→朝廷の教えが【(1)】を使えば(→重んじれば)、家庭の教えもまた道徳を使います(→重んじる)。
→朝廷の教えが名誉と利益を使えば(→重んじれば)、家庭の教えもまた名誉と利益を使います(→重んじる)。
【(1)】に何が入るかはもう分かりますね???
第4文「嘗有友人問、建文時何多忠義。」
品詞分解「〈嘗(M)〉、有(V)、友人(S)/、問(V)/、〈建文時(M)〉、【何】多(V)、忠義(O)」
→「有」はSV逆転するタイプです。
「何ぞ〜」は疑問形。
書き下し文「嘗て友人有り問ふ、『建文の時何ぞ忠義多き』と。」
→「嘗」は「かつて」(以前〜)と「な[ム]」(舐める)の2つの用法があります。
→「以前友人がいて、問うには『建文の時はどうして忠義が多かったのか』と。」
第5文「予曰、此父兄之教厳耳。」
品詞分解「予(S)、曰(V)/、此父兄之教(S)、厳(P)、〈耳(M)〉」
→「耳」は限定形です。
書き下し文「予曰く、『此れ父兄の教へ厳なるのみ』と。」
→「私が(答えて)言うには、『それは父兄の教えが厳格だったからです』と。」
第6文「友人問、何以知之。」
品詞分解「友人(S)、問(V)/、【何以】知(V)、之(O)」
→「何以〜」は「どうやって〜か」の意味の疑問形。
書き下し文「友人問ふ、何を以てか之を知ると。」
→「友人が(また)質問するには、『どうやってこれを知ったのですか』と。」
第7文「曰、以朝廷之教知之。」
品詞分解「曰(V)/、以(V)、朝廷之教(O)、知(V)、之(O)」
書き下し文「曰く、『朝廷の教へを以て之を知る』と。」
→「(私が答えて)言うには、『朝廷の教えによって、このことがわかる』と。」
第8文「蓋当時朝廷之教甚厳。」
品詞分解「〈蓋(M)〉、〈当時(M)〉、朝廷之教(S)、〈甚(M)〉、厳(P)」
→「蓋」、「甚」の意味を確認しましょう。
書き下し文「蓋し当時朝廷の教へ甚だ厳なり」
→「思うに、当時(建文の時)の朝廷の教えは非常に厳格であった」
第9文「其子弟苟或居官而不肖、則累及父母、累及宗族。」
品詞分解「其子弟(S)、【苟或】居(V)、官(O)/、〈而(M)〉不肖(P)/、〈則(M)〉、累(S)、及(V)、父母(O)/、累(S)、及(V)、宗族(O)」
書き下し文「其の子弟苟或官に居りて不肖ならば、則ち累父母に及び、累宗族に及ぶ。」
→「不肖(ふせう)」は「愚か・愚か者」という意味の重要語句。やや難。
→「苟或〜[バ]、則ち〜」は仮定形と呼ばれる句型です。
◎仮定形には3つのパターンがあります。
(1)「如、若、苟」+「則」…「もし〜ならば」
※「果して〜ば、」も同じ意味。
(2)「縦、雖」…「たとえ〜としても《仮定条件》」、「〜であるけれども《確定条件》」
※「=縦令、仮令」
(3)「使[メバ]A[ヲシテ]V[セ]」…「もしAがVしたら」
※(=令)
→「其の子弟がもし官職に就いていて愚か者であったなら、巻き添えは父母に及び、一族にも及んだであろう」
第10文「故孩提之時苟或不肖、則其父兄必変色而訓之。」
品詞分解「〈故(M)〉、〈孩提之時(M)〉、【苟或】不肖(P)/、〈則(M)〉、其父兄(S)、〈必(M)〉、変(V)、色
(O)、/〈而(M)〉、訓(V)、之(O)」
→「故」、「色」の意味を確認しましょう。
書き下し文「故に孩提の時苟或不肖ならば、則ち其の父兄必ず色を変え之を訓ふ。」
→「なので幼児の時にもし愚か者であったなら、その父兄が必ず怒りのあまり顔色を変えてこれを教え諭したものである。」
第11文「語曰、少成若天性、習慣如自然。」
品詞分解「語(S)、曰(V)/、少成(S)、若(V)、天性(O)/、習慣(S)、如(V)、自然(O)」
→「語」=「孔子」に注意。「若」、「如」の比較に注目。
書き下し文「語に曰く、『少成は天性のごとく、習慣は自然のごとし』と。」
→「孔子の言葉によれば、『幼少期に培われた性質は天性のようなものであり、習慣は自然のようなものである』と。」
第12文「積累既深、所以居官之時、雖九死而靡悔也。」
品詞分解「積累(S)、〈既(M)〉、深(P)、所以(P){〈居官之時(M)〉、〈雖九死(M)〉、〈而(M)〉【靡】悔(V)}也」
→「既」、「所以」、「雖」の意味を確認しましょう。
書き下し文「積累既に深きは、官に居るの時、九死すと雖も悔い靡き所以なり」
→「積み重ねがもうすでに深くなっていれば、官職に就いている時に、ほとんど死にそうになったとしても悔いることなどない理由である」
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さて次に問題をみてみましょう。
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問1 空欄補充
着眼点:①「亦」に着目する
②「比較」に着目する
・「朝廷之教以【(1)】」
・「家庭之教《亦》以道徳」
→この2つの文章は同じであるとわかる。したがって【(1)】=「道徳」であることがわかる。
・朝廷之教以【(1)】、則家庭之教亦以「②道徳」
・朝廷之教以「①‘名刺」、則家庭之教亦以「②‘名刺」
・【(1)】=「②道徳」
・「①‘名刺」=「②‘名刺」
→したがって【(1)】=「道徳」であることがわかる。
問2 単語の読み方
着眼点:「嘗」→「かつて」、「なむ」、「こころみる」
今回は副詞としての用法であるので「かつて」しかない。
問3 解釈
「以朝廷之教知之」
着眼点:「以」の訳出、「知」の訳出
・「以」=「〜によって」
・「知」=「わかる」
問4 返り点
「所以居官之時、雖九死而靡悔也」
着眼点:「くわんにをるのとき、きうしすといへどもくいなきゆゑんなり」
→「所以【11】居【2】官【1】之【3】時【4】、雖【7】九【5】死【6】而【8】靡【10】悔【9】也【12】」
「靡」の部分には「上レ点」が付きます。
問5 内容正誤
A:→「名刺を重んじるような方向は望ましくない」が本文記載なし。
B:→「国民を教え導いた」が本文記載なし。
C:→「国民が不安なく生活できるならば、国家は安定する」が本文記載なし。
D:→最初の第1〜第3文に一致。正解。
E:→「大きい影響力を持つことはない」が本文記載なし。
◎総評
出典は2015年中央大学文学部第3問である。本文内容、問題内容ともに平易なものである。目安時間は10分〜15分。
問1、2、4は易。問3、5はやや易。問5は正解を選びやすい一方で消去法は少し悩むかもしれない。
単語力、句型暗記を常に意識して訓練していけば特に問題はないと思います。
◎復習問題
(1)「耳」、「蓋」の読み方を平仮名で書きなさい。
(2)「何以知之」を口語訳しなさい。
(3)「語」とは誰の言葉か。
(4)「父兄必変色而訓之」を書き下し文にしなさい。
◎復習問題【解答】
(1)のみ、けだし
(2)どうしてこれがわかったのですか
(3)孔子
(4)父兄必ず色を変え之を訓ふ