r_u_x_n_a’s diary

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1日で得意になる漢文の解き方の話⑨〜実践編(3)国公立大・解説編

1.国公立大編 2018年熊本大学第4問

 

例にもよって本文への書き込みを晒します。

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今回からは量が多くなってしまうので書き下しと要点だけを確認していきます。

 

 

○第1文 蘇子曰、「道可致而不可求。」

 

 

〈ポイント〉

 

→道とは何か?を意識しながら読解していこう!

 

→「可」は可能。「不」は否定形。

 

 

【書き下し文】蘇子曰く、道は致す可くして求む可からず。

 

 

○第2文 何謂致。

 

〈ポイント〉

 

→「何[ヲカ]」は疑問形。

 

 

【書き下し文】何をか致すと謂ふ。

 

 

○第3文  孫武曰、「善戦者致人、不致於人。」

 

 

【書き下し文】孫武曰く、「善く戦ふ者は人を致して、人に致されず」と。

 

※注釈に記載の通り。「致」=「動かす」??

 

 

○第4文  子夏曰、「百工居肆以成其事、君子学以致其道。」

 

 

【書き下し文】子夏曰く、「百工肆に居りて以て其の事を成し、君子は学びて以て其の道を致す」と。

※注釈に記載の通り。「致」=「会得する」??

 

 

○第5文  莫之求而自至、斯以為致也歟。

 

〈ポイント〉

 

→「莫」は否定形。「自[おのずから]」は「自然に〜、当然〜」の意。「斯」は「斯[か]くして」から推測しましょう。「斯[ここ]」と読む。「〜也歟」は疑問形。

 

 

【書き下し文】之を求むる莫くして自ずから至る、斯を以て致と為すなるか。

 

 

◎第一段落 ポイント

 

・「道」とは何か?

・「致す」とは何か?

 

→第1文「道は致すべきものであって、求めるものではない」

 第5文「道は求めるものではなくて自然と到達する、これが「致す」ということである」

 

 

第6文  南方多没人。

 

 

【書き下し文】南方に没人多し。

 

 

第7文  日与水居也。

 

〈ポイント〉

 

→「与」は多様な用法があるので注意しなければならない。

・「と」=「〜と」(and、with)

・「ともに」=「一緒に」

・「くみ[ス]」=「仲間になる、賛成する」

・「あずか[ル]」=「関係する、参加する」

・「あた[フ]=「与える」

・「より[ハ]」=「〜よりも」(比較)

・「か・や」(疑問・反語の終助詞)

 

 

【書き下し文】日び水と居るなり。

 

 

第8文  七歳而能渉、十歳而能浮、十五歳而能没矣。

 

〈ポイント〉

 

→ここでの「矣」は疑問・反語ではなく、断定の置き字の用法です。

 

【書き下し文】七歳にして能く渉り、十歳にして能く浮かび、十五歳にして能く没す。

 

 

第9文  夫没者豈苟然哉。

 

〈ポイント〉

 

→「夫[そ]れ」は「そもそも」の意味。他に「夫[か]ノ」であれば「あの」(指示語)、「かな」であれば詠嘆である。

 

→「豈」は疑問・反語形。「苟[いやしく]も」も疑問・反語形です。

 

 

【書き下し文】夫れ没する者豈に苟しくも然らんや。

 

 

第10文 必将有得於水之道者。

 

〈ポイント〉

 

→「将」は再読文字。

 

 

【書き下し文】必ず将に水の道に得る者有らんとす。

 

 

第11文 日与水居、則十五而得其道。

 

〈ポイント〉

 

→「則」は〈仮定条件〉〈確定条件〉を表す。

 

 

【書き下し文】日び水と居れば、則ち十五にして其の道を得。

 

 

第12文 生不識水、則雖壮見舟而畏之。

 

〈ポイント〉

 

→「雖」は仮定形。

 

 

【書き下し文】生まれて水を識らざれば、則ち壮にして舟を見ると雖も之を畏る。

 

 

第13文 故北方之勇者、問於没人、而求其所以没、以其言試之河、未有不溺者也。

 

 

〈ポイント〉

 

→「故」は「理由」を表します。他にも多様な意味があるので注意!

・「故[もと]より」で「以前」☆頻出

・「故[ふる]し」で「昔」(→故郷)

・「故[ことさら]に」で「わざと」(→故意)

・「故[こと]」で「事件・災い」(→事故)

 

→「未不〜」は二重否定の形。意味は強い肯定。

 

 

【書き下し文】故に北方の勇者、没人に問ひて、其の没する所以を求め、其の言を以て之を河に試みるに、未だ溺れざる者有らざるなり。

 

 

第14文 故凡不学而務求道、皆北方之学没人也。

 

〈ポイント〉

 

→「凡」は「すべて、おしなべて、そもそも」の意味。「皆」も「すべて」の意味。

 

 

【書き下し文】故に凡そ学ばずして道を求むるに務むるは、皆北方の没を学ぶ者なり。

 

 

 

 

国公立大学の漢文の難しい点は次の2点が挙げられると思います。

 

白文書き下し

読解を踏まえた解釈

 

①については文法が分かればそこまで構える必要はありません。毎日の演習の積み重ねで習得可能です。

②については国語力[=読解力]が試されます。本文全体を踏まえて本質を捉えないと解答は容易ではありません。

 でも要は何が言いたいのかを汲み取るだけです。本文もそんなに長くないので探すのは難しくないです。精読を励行しましょう。

 

 

 

では問題を見ていきましょう。

 

 

 

問1 語句の読み

 

・「与」は多様な用法があるので注意が必要です。

→でもここは「と」しかないでしょう。

 

・「苟しくも」は「いや[しくも]」です。読みより意味の方が重要です。

 

 

問2 返り点

 

・「将」が再読文字であることに注意。

・「有」はVSの語順になるので注意。

 

・品詞分解

〈必(M)〉【将】有(V)、{[得(V)、於水之道(O)]者(S)}

 

・語順

必【1】将【2・10】有【9】得【7】於【3】水【4】之【5】道【6】者【8】。

 

 

問3 口語訳 「未有不溺者也」

 

 

ポイントは二重否定の訳出だけです。

 

 

否定形の「未」と「不」をないものと見ると「(未)有(不)溺者也」→「有溺者也」となるので意味は「溺れる者がいる」という意味になる。

 

 

 

【品詞分解】【未】有(V){[【不】溺(V)]者(S)}也。

 

↓(読み方の確定)

 

【書き下し文】未だ溺れざる者有らざるなり。

 

↓ (主語等を補う)

 

【口語訳】北方の人で溺れない人はいない

 

 

 

問4 解釈

 

 

(1)「道」の解釈

 

問題文より第一段落における「道」の解釈を問う問題です。抽象的でなかなか難しいとは思いますが、範囲も限定的であり、本文全体をある程度把握できれば問題ないでしょう。

 

特に解答の核になる部分は次の2文だと思います。

 

☆道可致而不可求…莫之求自至、斯以為至也歟

 

 

また、「道」の過程を孫武と子夏の言葉を用いて説明している。

 

 

☆「善戦者〜不致於人」、「百工居〜致其道」

 

 

〈ポイント〉

 

①道とは求めるものではなく、自然と到達するものである

 

②相手を動かしたり、自分の店の中で完成させたり、学問をすることによって「道」を会得できる

(→全部を書く必要はない)

 

ポイントの①、②をまとめれば解答を導けると思います。

 

 

【例】「道」とは進んで求めるものではなく、積み重ね学問に励む過程の中で自然と会得されるものであるとしている。

 

 

 

(2)「不学而務求道」と「北方之学没者」の解釈

 

全体の要約になります。筆者の伝えたいことは何なのか。

センターでも二次試験でも必ずといっていいほど聞かれる国語学習の最終到達目標といえる問題パターンです。

できるまで粘り強く解くことが国語力、読解力の養成につながります。

 

 

〈ポイント〉

 

・傍線部の「不学而務求道」と「北方之学没者」についての共通点とは何か。

 

→本文のどの部分を指しているのか。

 

→その部分における「学」とはどんな意味であったか。

 

 

①傍線部を理解しよう

 

【書き下し文】

学ばずして道を求むるに務むるは、皆北方の没を学ぶ者なり。

 

【現代語訳】

《学ばない》で道を求めようと勤しむのは、すべて北方の人が潜るのを《学ぶこと》と同じである。

 

 

②本文のどの部分を指しているのか

 

・不学而務求道

 →第一段落の話

 →「学」の意味は「学問」である

 

 

◎第一段落のまとめ

 

・道は求めるものではなく自然と到達するものである。

・君子は学問することで道を会得すると説いている。

 

 

・北方之学没者

 →第二段落の話

 →「学」の意味は「(方法を)教えてもらう」ことである

 

◎第二段落のまとめ

 

・南方の人に潜ることのできる人が多いのは、毎日水と共に生活し、水の性質を会得しているからである。

・だから北方の人が南方の人に潜る方法を教えてもらってやってみても必ず溺れてしまう。

 

 

〈共通点〉とは…?

 

→大まかな共通点

①道は求めるものではない(という前提)

②学ばずに道を求めている点。

 →より具体的に落とし込もう。

 

①道は求めるものではないのに、②前者は積み重ね学問をせずに道を求めており、後者は潜る方法を教わるだけで道を求めている。

 

 

【例】「道」は求めても会得できるものではないのに、求めるだけで積み重ね学問をしないために道を会得できない点と潜る方法を教わるだけで溺れてしまう点が同じであるということ。

 

 

 

 

◎総評

 

出典は2018年熊本大学文系第4問である。語句、句型ともに基本的であり、平易な内容である。目安時間は20分。国公立大漢文の特徴として本文読解の記述を含んでいる点が漢文対策の中心となると思います。特に今回だと「道」に関する読解が本文全体を理解できないと難しいと感じてしまうのかなと思います。特に難しい問題はなく、基礎的な語句、句型の練習になると思います。標準的な問題です。

 

 

 

◎復習問題

 

①「夫没者豈苟然哉」を現代語訳しなさい。

 

②「未有不溺者也」をすべて平仮名で書き下しなさい。

 

 

 

 

 

◎復習問題解答

 

①そもそも潜ることをどうしていい加減に行うことができるだろうか(いやできない)。

 

・「夫[そレ]」は「そもそも、いったい」

・「夫[かノ]」は「あの〜(指示語)」

・「夫[かな]」は「だなぁ(詠嘆)」

 

・「豈」は疑問・反語・詠嘆を表す語句。

→「然らんや」は『「然る」の未然形+ン(+や)」なので反語。 

※「未然形+ン+ヤ」は基本的に反語(稀に詠嘆)。

 

・「苟[いやしくモ]」は「もし〜ならば」と「いい加減に」という意味。

 

②いまだおぼれざるものあらざるなり。

 

・着眼点…「有」は「VS型」なので「有」の次はS(主語)になります。「未だ〜ず」は再読文字。

 

・注意点…否定形が続く動詞の活用形は…? →溺れざる者、有らざるなり(未然形)